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第3話 あなたの女...

作者: 琉球狸
last update publish date: 2026-07-04 20:53:24

「嫉妬で人が死ぬの?」

「死ぬ」

祖父は断言した。

「嫉妬は毒や。自分の中で育てすぎたら、自分を殺す」

二人目に死んだのは、

鍛冶屋の息子に嫁いだばかりの娘だった。

夫が鞠子に惹かれていることを知り、

ある夜、鞠子の家に乗り込んだ。

翌朝、娘は村外れの崖の下で見つかった。

崖から落ちたのか、落とされたのか、

自分で飛んだのか、誰にもわからなかった。

鞠子は最初から最後まで、何も言わなかった。

ただ悲しそうな顔で...

「気の毒なことをした」

とだけ言った。

その顔が本当に悲しそうで、

嘘をついているようには見えなかったと、

周りはそう話してたらしい。

三人目は行方不明だった。

鞠子に激しく嫉妬していた中年女が、

ある秋の夜を境に姿を消した。

山を探しても...

川を探しても...

見つかることはなかった。

ただ一つだけ残されたものがあった。

鞠子の家の前に、女の下駄が一足、

揃えて置かれていた。

女たちが死んでいく一方で、

男たちも消えていった。

最初の男は、妻が死んで半年後に心の臓をやられた。

畑の真ん中で倒れているのを朝一番に仕事に出た隣人が見つけた。

まだ息はあったが、そのまま三日後に逝った。

死ぬ前に一度だけ意識が戻ったとき、

男は一言だけ言ったという。

「鞠子さんを愛していた...」

それが最後の言葉だった。

鍛冶屋の息子は、

妻が崖で死んでから一月ほど後に失踪した。

仕事場に道具を残したまま出ていったきり戻らなかった。

何年か後に...

山の奥で白骨が見つかったが、それが息子のものかどうかは最後まで確認できなかった。

五十の顔役は、一番最後まで生き残った男だった。だがやはり、最後は死んだ。

年が明けてすぐの夜、川に落ちた。遺体は三日後に下流で見つかった。

顔は、何故か、穏やかだったという。

男たちが死んでいく間、鞠子は変わらなかった。

季節が巡っても、

村人が減っても、

鞠子だけは変わらなかった。

皺が増えることもなく、

髪が白くなることもなく、ただそこにいた。

「じいちゃん」

俺は聞いた。

「なんでその人たちは死んだの。

鞠子さんが殺したの?」

祖父は少し間を置いた。

「殺したんとは違う」

「じゃあなんでさ」

「惹かれたからや」

祖父は静かに言った。

「惹かれすぎたんや。あの女に惹かれると、他のもんが全部霞んでしまう。飯も、仕事も、家族も、全部どうでもよくなってしまう。そういう女やったんや」

「それは...呪いじゃないの?」

「呪いとは違う」

祖父は繰り返した。

「引力や。

太陽みたいなもんや。

あんまり綺麗なもんに近づきすぎたら、燃え尽きてしまうやろ?」

俺はその言葉をしばらく噛んだ。

「じいちゃんはその女の子を知ってるの?」

祖父は答えなかった。

ただ湯呑みを片手に、庭の闇を見ていた。

俺はそれ以上聞かなかった。

聞いてはいけない気がしたからだ。

祖父の横顔がそういう顔をしていたからだ。

昔話の語り手の顔ではなかった。

何かを、抱えている人間の顔だった。

祖父が死んだのは、俺が十五の春だった。

遺品を整理しているとき、

俺は一冊の古い手帳を見つけた。

その手帳を開くと...

そこには、女性の絵が描かれていた。

祖父が話していた通りで

薔薇のような...

向日葵のような...

百合のような...

綺麗な女性だった。

......

...

.

記憶が、現在に引き戻された。

繁華街の人混みの中に、俺はまだ立っていた。

女の子もまだそこにいた。

微笑んだまま、俺を見ている...

逃げるでもなく、近づくでもなく、

ただそこに立っていた。

まるで俺が思い出し終わるのを、

最初からわかって待っていたように...

年の頃は二十代の半ばほどに見えた。

だが俺は直感的に思った。

この女の子は、二十代なんかじゃない。

肌の白さ

切れ長の目

腰まで流れる黒い髪

向日葵のような笑顔

祖父が語った女の子と、同じだったからだ。

信じるなんて馬鹿馬鹿しいかと思うけど...

なのに目の前の女の子は、

少しも変わっていないはずの祖父の手帳に

描かれた女の子と、同じ顔をしていた。

女の子が笑顔で、口を開いた。

「ふふっ...うちの顔に、何かついてはります?...」

......!?......俺は息が止まった。

驚いたのはその子の喋り方が...

亡くなった祖父の方言と、同じ響きだった。

どこの出どころかわからない、

曖昧な、懐かしいような方言。

女の子は笑顔のままこちらを見ている...

その笑顔が、向日葵みたいで

俺は声が出なかった。

ネオンが揺れた。人混みの音が遠くなった。

俺と女の子の周りだけが、

静止しているように感じた。

その静止を崩すような声が響く...

「お姉ちゃん、道の真ん中に突っ立ってたら

みんなの邪魔だよ〜。」

「暇してるなら俺たちと遊ぼうか?」

繁華街によくいる泥酔した若者たちが

女の子に声をかける。

その子を取り囲むように絡む若者たち...

繁華街ではあるあるだ。

祖父の記憶も相まって、戸惑ってしまったが...

昔の話だし記憶違いだろう。

その子から目を逸らし、俺は通り過ぎようと

していた。

関わらない方が良い...

俺は、外したイヤホンを取り出して

耳にはめようとしたその時だった。

「助けて...朔夜...」

女の子の声が耳元で聞こえた。

空耳ではなく、はっきりと...

まるで耳元で囁かれたように。

気付けば、女の子を掴む手を払い落とし

若者たちを睨みつけながら、俺は気づいたら...

女の子を守るように間に入り、

「俺の女に何か用ですか?、やめてくださいよ!」

と関わってしまった。

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